犬の避妊手術について
今回の内容
- 避妊手術とは
- メリットとデメリット
- AAHAガイドラインと手術適期
- 術式について
- まとめ
避妊手術とは
避妊手術は卵巣・子宮を摘出(または卵巣のみ摘出)する手術のことを指します。各々の術式に関しては以下で解説していきます。
卵巣や子宮はお腹の中に存在するため、開腹での手術となり基本的に1泊の入院経過措置が取られることが多い傾向があります。
年齢を重ねると子宮疾患がよく認められますが、特に子宮蓄膿症は命に関わる病気であり予防することも出来る病気でもあります。(子宮蓄膿症に関してはこちら)
術後の糸を気にして噛んでしまう子も多いため、当院では吸収される糸を使用し抜糸をしない方法を採用しています。
メリットとデメリット
避妊手術についてはメリット(利点)に焦点が当てられがちですが、元々あるものを摘出するためデメリットも存在します。デメリットを上回るだけのメリットがあれば手術を検討しても良いかと思います。
【メリット】
- 避妊手術実施している犬・猫の方が寿命が長いと報告
- 若齢時に実施することで乳腺腫瘍の発生リスクを低減できる可能性あり
- 将来的な卵巣・子宮疾患及び性ホルモンに関連する病気を予防
(例)子宮蓄膿症/内膜過形成、卵巣/子宮腫瘍、偽妊娠
【デメリット】
- 全身麻酔が必要
- 繁殖能力は生涯にわたり消失
- 免疫介在性疾患、肥満のリスクが上昇
- 大型犬での早期手術は骨関節疾患、尿失禁を発症するリスクが高まる
術式について
一般的な術式としては次の3つがあります。
- 卵巣子宮摘出術
卵巣及び子宮頸部付近までをまとめて切除する方法
- 卵巣摘出術
卵巣のみを摘出する方法で上記と比較して避妊、病気の予防効果に差はないとされている。ただし子宮疾患(子宮内膜症や子宮蓄膿症)の場合は適応外となる
- 腹腔鏡下手術
腹腔鏡を用いた手術で2−3箇所の切開創はできるが非常に小さく、卵巣を牽引しないため疼痛が小さい。機器が高額のため手術費用は高くなる。
当院では基本的に卵巣子宮摘出術を行い、若齢などの場合は卵巣摘出術を検討します。また発情中(生理期間)は血管が脆弱になるなどで出血のリスクが増えるため基本的には落ち着いてから実施します。
AAHAガイドラインと手術適期
AAHAは米国動物病院教会で犬・猫における様々なガイドラインを作成している機関です。ガイドラインでは小型犬において5-6ヶ月齢、大型犬(>20kg;原文では>45lb)では成長が落ち着いたことが確認された15ヶ月齢までの実施を推奨しています。これは特に大型犬において早期の避妊手術と各種疾患の関連が報告されていることに基づいています。(詳細はこちら)
小型犬の場合、6ヶ月齢以降も乳歯が残ること(遺残)があります。乳歯の遺残は歯並びに影響するだけでなく歯周病の原因となるため、抜去し矯正することが重要です。一般的に9ヶ月齢までは永久歯が固まっておらず矯正が容易に実施することができます。このため当院では8ヶ月齢頃かつ発情出血が起こっていな時期の避妊手術実施をお勧めしています。
まとめ
今回犬の避妊手術について解説してきました。
手術のである以上、メリット・デメリットが存在します。
診察をしていると発情毎に体調を崩したり、脱毛が気になる子のエコー検査をすると卵巣が腫瘍化していたりする機会に多々遭遇します。妊娠/出産を希望されないのであれば適切な時期の中性化(避妊手術)は検討してみる価値はあるかと思います。
避妊手術を迷われているご家族の方に手術に対して考える参考になれば幸いです。
院長 中谷