慢性腎臓病(CKD)について②〜治療編〜
今回の内容

- 腎臓の検査をする前に
- 腎機能検査について
- 腎機能と関連する検査について
- 腎臓の障害と構造の評価
- 慢性腎臓病の原因について
- まとめ
腎臓の検査をする前に

何だか最近食欲が落ちている?体重が減った?など実は何気ない体調の変化でも獣医師は様々な鑑別診断を頭の中で考えています。今回のテーマである慢性腎臓病においても特徴的な症状があり、これら情報を聞きながら次にするべき検査を実施・提案していきます。腎臓の病気を疑うサインとしては次のような症状があります。
- 多飲多尿
- 食欲不振
- 体重減少
- 脱水の有無
- 尿の希釈(オシッコの臭いが少なくなった)
また健康診断などで行う血液検査では尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cre)、SDMAといった項目が2つ以上上昇しているなどが腎臓の病気を疑うサインとなります。
腎機能検査について
腎臓の病気を疑った際に重要なのはどの程度、腎機能が残っているかということです。腎機能の評価は以下の2つを調べることでできます。
- 糸球体濾過量(GFR)
- 腎尿細管機能
前者のGFRは動物では測定が煩雑であり、一部の大学病院や専門施設などでしか実施されていません。一方、人では血清クレアチニン、年齢及び性別から腎機能を推定することができます。(糸球体濾過量(GFR)eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate)
これは犬や猫では体格差や筋肉量、体重によって個体差が大きいからと言われています。そのため動物では簡易的な血液バイオマーカーとしてBUN、Cre、SDMA、CysCなどが利用されています。ただしこれらも完全に糸球体濾過量を反映している訳ではなく一長一短があるため解釈を慎重にする必要あります。
腎尿細管機能については尿検査を行うことで評価することができます。尿検査では尿中に蛋白や糖が出現していないか、比重(オシッコの濃さ)が正常かなどを調べていきます。ここで重要な事として水をよく飲んでいるから脱水はないと勘違いされているケースがよく見られますが、大量の水は排泄を促進させて脱水の原因となるため注意が必要です。
腎機能評価に用いられる血液バイオマーカー(概略)
- BUN:蛋白代謝物、筋肉量に影響なし(食事、脱水で変動大きい)
- Cre :筋肉で産生、安定(筋肉量低下で信用度が急落する)
- CysC:蛋白代謝物、筋肉量に影響なし(肥満で上昇、猫で使用不可)
- SDMA:蛋白代謝物、筋肉量に影響なし(リンパ腫で上昇、猫種によっては高値になる、個体内変動が大きい)
腎機能と関連する検査について

腎機能の低下が起こると腎臓に関連した各々の状態も悪化していきます。慢性腎臓病だからといって腎臓だけを見ていくのではなく全身状態の安定化を目指すことが重要となります。(腎臓の機能について)代表的な異常に関しては次のようなものがあります。
- リン・カルシウム代謝異常(FGF-23の測定)
- 代謝性アシドーシス(尿毒症の評価)
- 高血圧(血圧の測定、眼や心臓の評価)
- 腎性貧血(貧血の確認、ホルモン療法の検討、鉄剤の補給など)
これらの症状は腎機能が低下すると悪化するだけでなく慢性腎臓病そのものを悪化させる要因となるため積極的に治療することが重要です。ただし腎臓が悪いからと言って無目的にサプリや食事療法、ネットでの内服購入・投与をすると効果がないだけでなく害が出る可能性もあるため注意が必要です。
各々の状態に関しては個別の検査が必要となります。
例)カルシウムだけが高い子にリン制限食を与えるとより高カルシウム血症となり元気・食欲の低下を招く可能性あり
腎臓の障害と構造の評価について

当院では健康診断や治療の際に超音波検査(以下エコー検査)を提案することが多々あります。これは血液検査では特に異常は確認されないものの、エコー検査では腎臓の構造異常が認められることがあるためです。もちろん構造の異常があるからと言ってすぐに症状が出る訳ではありません(沈黙の臓器たる所以)しかし多くの場合において経過を追っていくと徐々に数値が上昇したり慢性化により慢性腎臓病を発症することがわかっています。そのため早期に診断をすることにより、より注意深く経過を観察することができます。また腎臓の障害が起こると尿中に蛋白が出てくることがあり、これらの程度によりどの部位における炎症かを推定することが可能となります。
例)(UPC>3.5:糸球体疾患など)UPC:尿中蛋白・クレアチニン比
慢性腎臓病の原因について
慢性腎臓病(CKD)には様々な症状があり一筋縄ではいかないことを解説してきました。様々な症状で腎臓が悪化し慢性化するのであればその原因は何かを知ることは治療の上で重要です。原因として多いものとしては次のようなものがあります。
- 糸球体疾患
- 先天性腎疾患
- 腎盂腎炎
- 尿管閉塞
- 多発性嚢胞腎
犬では糸球体疾患や先天性腎疾患がよく認められ、糸球体疾患においては細菌感染(歯周病なども考えられる)や膵炎から生じることもあります。
猫では腎盂腎炎や尿管閉塞から慢性化するケースがよく認められます。また中毒性物質(観葉植物など)を摂取して急性の腎盂腎炎を起こしたのちに慢性化することもあります。多発性嚢胞腎はスコティッシュ・フォールドなどにおける遺伝性疾患や偶発的にエコー検査で発見されることがあります。
まとめ

今回は慢性腎臓病の診断方法について解説していきました。
腎臓は沈黙の臓器と言われるように血液検査で実際に数値が上昇してくるのはおよそ1/3の機能を失ってからと言われています。最近はSDMAやCysCといった早期マーカーも出てきましたがそれでもまだ十分とは言えません。早期発見のためには定期的な健康診断において血液検査・レントゲン検査・エコー検査・尿検査といった様々な視野からのアプローチが重要となります。
腎臓の障害は回復が難しく、慢性化すると治療に反応しずらいという事を踏まえて元気なうちから検診をしていくことが重要です。
(慢性腎臓病(CKD)③〜治療編〜につづきます)
参考文献
- CLINIC NOTE No.218 徹底理解!慢性腎臓病の検査と管理
- 伴侶動物治療指針 Vol.7