アレルギー治療の新薬【ゼンレリア®︎】
今回の流れ

今回は2024年11月に発売された新しいアレルギーの治療薬【ゼンレリア®︎】について解説していきます。また犬アトピー性皮膚炎と今までのお薬についてもおさらいしていきます。
- 犬アトピー性皮膚炎とは
- 今までのアレルギー治療薬
- 新しいお薬【ゼンレリア】とは
- 当院での使用感について
- まとめ
- おまけ(ゼンレリアの作用機序について)
犬アトピー性皮膚炎とは

犬アトピー性皮膚炎(以下cAD:canine atopic dermatitis)は慢性的な痒みを伴う皮膚疾患です。症状は生活環境に存在するアレルゲン(ダニや花粉など)に反応して過剰に免疫反応が起こることで引き起こされます。人同様に犬も痒みを感じると皮膚を掻く・噛むなどの行動を起こし、これにより皮膚のバリアが破壊され更に症状を悪化させていきます。このため早期の発見・治療・管理が重要となります。
今までのアレルギー治療薬
cADの治療に関して今まで様々なお薬が開発・販売されてきました。それぞれメリット・デメリットがあり各々の特徴を活かして組み合わせることが治療を成功させる上で重要となります。
- プレドニゾロン:一般的にステロイドでの治療と言われるとこちらを指すことが多いです。痒みに対して即効性があり、かつ皮膚の炎症などに対しても効果を発揮します。特に炎症により皮膚が厚い状態(苔癬化:たいせんか)に対しては非常に有効です。ただし様々な副作用が報告されているため獣医師指導に従い適切な管理下での使用が必須となります。
- シクロスポリン:免疫抑制剤に分類されるお薬でアレルギー反応によって生じた過剰な免疫反応を抑制・調整して痒みを抑えます。特に食物アレルギーにおいて他の内服に反応しない場合にも優れた効果を発揮してくれることがあります。血液中の濃度が安定すると減薬できるなどの特徴もあります。デメリットとしては効果発現までに2週間程度かかりやや即効性に欠け服薬の初期に嘔吐などの症状がでることがあります。
- オクラシチニブ:アポキル®︎という名前で知られているお薬で2016年に発売されました。これまでのお薬と比べて副作用が少ないことからcADの長期管理に使用される機会が増えてきました。デメリットとしては長期服用にて白血球の低下が報告されており、また減薬(1日2回→1日1回)する際に痒みが再発することが知られています。炎症に伴う肥厚に対しては効果が低いため外用薬の併用が必要なことがあります。
- ロキベトマブ:サイトポイント®︎という注射薬で一回の投与で1ヶ月間の効果を発揮します。効果の判定は血中濃度が安定する3ヶ月目で行いますが内服が困難な子に対しては頼れる存在です。皮膚の痒みを引き起こす神経炎(IL-31)に対してのみ効果を発揮し、副作用が少ないことが特徴です。炎症があると効果が乏しいため当院では皮膚炎が安定している時期に再発の目的で使用しています。
皮膚は目に見える臓器と言われるように内服や注射のみではなく外用薬や保湿などのケアも併せて総合的に治療していくことが重要となります。
ゼンレリアについて
【ゼンレリア®︎】はイルノシチニブという薬剤で2024年11月に発売されたお薬で上記のアポキル®︎と似たような作用機序を持ちます。特徴としては以下のようなものがあります。
- 初期から1日1回の投与で効果を発揮
- 素早い効果発現で皮膚病変の改善
- 投薬時の食事の有無を問わない
アポキル®︎との比較としてはこれまで改善しにくかった食物アレルギーにおいても効果を感じています。またアポキル®︎と比較して価格が抑えられており費用の点からアポキルが使用できずプレドニゾロンを継続していた子に対しては朗報となります。アポキルの効果がないという訳ではないため状況に応じて使い分けが大切となります。続いて当院での使用感について主観的な側面から解説していきます。
(追加)
*2025年1月にゼンレリア(イルノシチニブ)の効果と安全性に関する論文が発表されました.(Sophieら 2025) (Comparative efficacy and safety of ilunocitinib and oclacitinib for the control of pruritus and associated skin lesions in dogs with atopic dermatitis)
→こちらの論文ではイルニシチニブの方がオクラシチニブよりも早期に掻痒および皮膚病変の改善が認められたと結論づけられています。
当院での使用感について
現在当院ではゼンレリア®︎を使用してもらっているわんちゃんが10頭程度いますが各々の所見について簡単に解説していきます。
- 急性外耳炎:強い痛みを持つ急性外耳炎に対して耳の治療前に使用しました。初日はプレドニゾロンを注射で使用し以降はゼンレリアを3日間使用し再度耳の検査を行いました。(洗浄などはせず)耳表面(耳介)の炎症は著しく改善しており耳の検査に対しても寛容な様子で洗浄+治療を行いました。これまでは耳の肥厚に対してステロイドを使用していましたが、初期治療でも減薬できる可能性が考えられました。
- 犬アトピー性皮膚炎(cAD):cADの再発症例に使用しました。今まではアポキルを使用していましたが大きな規格が無くなったため切り替えを提案させていただきました。使用感としてはアポキルと変わりなく費用が抑えられたことが良いとのお声をいただきました。
現時点での使用感としては痒みに対して論文にもあったようにアポキルを1日2回で服用(または倍量で1日1回(適用外使用))している際の使用感と似た感じでした。アポキルは減薬の際に痒みがぶり返すことがあるため、最初から1日1回で良いという点で使いやすさを感じました。
まとめ
今回は新しく発売された犬アトピー性皮膚炎治療薬である【ゼンレリア®︎】を紹介させていただきました。薬には各々特性があり、新しいからと言って全ての症状に効果がある訳ではありません。特にアレルギーなどの長期管理が必要な疾患に関しては既存の薬との併用や保湿などの外用療法、食事、サプリメントなどを組み合わせてその子に最も合った治療法を選択していくことが重要となります。今までのお薬では上手くコントロールできなかったり、副作用の少ない治療を検討されている子には一度使ってみる価値はあるかと思います。詳しくは獣医師までご相談ください。
院長 中谷
おまけ(ゼンレリアの作用機序について)
〜鋭意製作中〜
参考文献
- Elanco Japan HP [https://my.elanco.com/jp/products/zenrelia]
- 鳥取大学農学部 Topics vol.114 辻野久美子[痒みの治療(オクラシチニブの使い方)]
- Comparative efficacy and safty of ilunocitinib and oclacitinib for the control of pruritus and assicuated skin lesions in dogs with atopic dermatitis. Sophieら 2024
- Janus Kinase Inhibitors in Dermatology: Part 1- General Considerations and Applications in Vitiligo and Alopecia Areata. C.Garcia-Melendoら 2020