子宮蓄膿症治療薬(アリジン)について
子宮蓄膿症は命に関わる可能性のある病気であり、現在も手術が第一選択となります。しかし、
- 高齢である
- 心臓病がある
- 腎臓病がある
- 麻酔リスクが高い
- 繁殖を希望している
などの場合には、アグレプリストン(アリジン)による内科治療が選択できることがあります。今回はアリジンによる治療方法やメリット・デメリットについて解説します。
今回の内容
- 子宮蓄膿症とは
- アグレプリストン(アリジン)とは
- 適応症例について
- 犬での使用方法
- 猫での使用方法
- ウサギでの使用方法
- モルモットでの使用方法
- ハムスターでの使用方法
- まとめ
子宮蓄膿症とは

子宮蓄膿症は子宮内に膿が溜まる緊急性の高い疾患です。犬では発情後1〜2ヶ月の間が最も発生率が高く、黄体ホルモン(以下プロジェステロン)の影響が知られています。このメカニズムは治療の上でも重要で今回の注射薬がなぜ効果を示すかを説明する上で重要なキーワードとなります(詳しくはこちら【犬の子宮蓄膿症について】)
溜まった膿が腹腔内に漏れ出すことで細菌性の腹膜炎や菌血症などを引き起こし最悪の場合は死に至ります。予防方法としては避妊手術が最も効果的であり、抗生剤などで一過性に症状が緩和しても再発が非常に多い病気となります。
引用元:アニコム損保
アグレプリストンについて

アグレプリストン(以下アリジン)は子宮蓄膿症に対する注射薬であり今までもオーストラリアからの輸入で一部の動物病院では既に使用されていました。しかし輸入薬のため金額や期限の短さ(廃棄のリスク・コスト)などから広く使用されるまでには至っていませんでした。今回その治療薬が日本で発売されることになったことで麻酔のリスクや年齢、持病などの要因で治療ができなかった動物たちの選択肢が増えると考えています。
作用の機序としては黄体から分泌されるプロジェステロンに対して受容体をブロックし分泌量を低下させることで子宮頸管を緩め排膿を促します。他の内科的治療薬であるプロスタグランジンF2αと異なり副作用が全く認められないという点が特徴となります。このため心疾患やてんかんなどの神経疾患がある場合に対しても安全に使用することができると考えられています。
適応症例について

子宮蓄膿症は基本的には外科的に卵巣・子宮全摘出を行うことが最も推奨される治療法となります。しかし以下の場合においては内科的な治療が適応されます。
- 若齢で今後繁殖を希望する場合
- 高齢や麻酔・手術リスクが高い場合
- その他の理由により飼い主が希望されない場合
ただし内科的な治療はデメリットとして
- 治癒までに時間がかかる
- 必ずしも100%の治癒率ではない
- 卵巣腫瘍や重度な嚢胞性子宮内膜増殖を伴うものでは効果がないこともある
- 次回以降の黄体期(発情出血後)に再発する可能性が高い
などがあります。このため状態や今後の様子を確認しながら獣医師としっかり相談していくことが大切です。
Q andA よくある質問
子宮蓄膿症で手術をしない選択はできる?
子宮蓄膿症の治療において最も確実な方法は、卵巣子宮摘出術(避妊手術)です。
しかし、
- 高齢である
- 心臓病を患っている
- 腎臓病などの基礎疾患がある
- 繁殖を希望している
といった理由から手術が難しい場合もあります。
そのような症例では、アグレプリストン(アリジン)による内科治療が選択肢となることがあります。
ただし、すべての症例に適応できるわけではないため、全身状態や超音波検査の結果を踏まえて判断する必要があります。
アグレプリストン治療のメリットって何?
アグレプリストン(アリジン)には以下のようなメリットがあります。
- 麻酔や外科手術を必要としない
- 繁殖能力を温存できる
- 全身状態への負担が比較的少ない
- 高齢動物でも選択できる場合がある
特に麻酔リスクが高い症例や繁殖を予定している症例では有効な治療選択肢となります。
アグレプリストン治療のデメリットはないの?
内科治療には注意点もあります。
- 治療期間が長くなる場合がある
- 定期的な超音波検査が必要
- 再発の可能性がある
- 重症例では十分な効果が得られないことがある
そのため、症例によっては外科手術の方が適している場合もあります。
どのような症例にアリジン治療を勧めるの?
当院では以下のような症例でアグレプリストン治療をご提案することがあります。
- 将来的に繁殖を希望している
- 高齢で麻酔リスクが高い
- 心疾患などの基礎疾患がある
- 全身状態から手術リスクが高いと判断される
ただし、子宮蓄膿症の第一選択は現在でも外科手術です。
当院では超音波検査や血液検査を行い、それぞれの症例にとって最適な治療方法をご提案しています。
犬での使用方法

犬でのアリジンの使用に関しては2022年にRagnviがレビューを報告しておりここでは使用は様々なプロトコールについて比較されています。
- 用量:10mg/kg 投与日:D2,7,14 54ヶ月後の再発は12%、Jurkaら 2010
- 用量:10mg/kg 投与日:D1,2,7,15 治癒していない場合は追加でD23,29に投与 75%で改善、28頭中6頭で外科的手術実施し1頭は安楽死 Rosら 2014
- 用量:10mg/kg 投与日:D1,2,7 92%で改善あり、3ヶ月後の再発は10% Traschら2003(基本的なプロトコールとして設定されている)
- 用量:10mg/kg 投与日:D1,3,6,9 47頭での改善は100%、24ヶ月後の再発は0%、2年間の経過観察で78%に受胎能の改善あり Contriら 2015
現在のところContriらの報告が最も成績が良く、また経過の観察も2年間実施されていることから信頼性の点など総合的に判断して当院では標準プロトコールとして使用しています。また猫においても2022年に同等のプロトコールを使用した報告があります。(猫での使用法で解説)
【review論文についてはこちら】
猫での使用方法

猫では犬と比較して若齢での発症が報告されています。当院で実施した最も若い子宮蓄膿症の猫ちゃんは1歳未満でした。ただし高齢だからと言って発症しない訳ではなく10歳以上の子での発生も認められます。Alizinの発売元であるVirbacのHPでは2018年のS.Romagnoliらによる報告を引用しています。ただし猫の場合は15mg/kgと犬での使用する用量(10mg/kg)よりも多い用量で使用されていることが多いようです。この報告では妊娠初期であれば10mg/kgでも同様の効果が認められるとのことですが、妊娠後期では成功率が66%まで低下するとのことから子宮蓄膿症といった慢性的な状態に対してはやや用量を増やして対処することで可能性を高めることが予想されます。この用量に関してはoff-label(適応外使用)報告とされています。2022年にSimonaらが報告したプロトコールは犬での成績が最も良い報告をしているContriらが設定しており用量15mg/kgで投与がD0,2,5,8で頭数は5頭と少ないものの100%の改善と報告されています。この報告では10日までの副作用は全く認められず75%で受胎能の回復がみとめられました。
ウサギでの使用方法

ウサギでの報告は子宮蓄膿症に対して使用したというものではなく堕胎処置に対して使用したという報告になります。ここでは交配後15、16日目に対してアグレプリストン10mg/kgを24時間毎に2回投与したというものになります。ここでは100%の割合で堕胎が起こったと報告されています。ウサギの子宮蓄膿症は非常に死亡率が高く、発見(診断)されたときにはかなり進行していること、麻酔に対してのリスクが非常に高いなどの理由から選択肢の一つとなる可能性があります。当院では2026年現在でエコー検査および細胞診にて子宮蓄膿症と診断したウサギのうち2羽(3羽中)で排膿が認められており効果が確認されています。
ウサギの記事【うさぎの子宮蓄膿症】
モルモットでの使用方法

モルモットにおいても犬・猫よりも卵巣・子宮摘出術に対するリスクが高くなります。特に子宮蓄膿症の場合は普段よりも麻酔下での死亡リスク上昇するため非常に経過観察に対して神経を使います。ここでの報告もオーナーが外科的手術を希望しなかったため適応外使用であるが同意の上使用したことが記載されていました。
症状は高体温のみで痛みなどはなかったとのことです。用量は10mg/kgで投与はD0、1とD7に投与されています。この際に抗生剤としてエンロフロキサシン(5mg/kg,for 3days)が併用されています。
ハムスターでの使用方法

ゴールデンハムスターでは2012年にPisuらにより子宮蓄膿症に対してアリジンの使用が報告されています。ここでは犬でFieniらが2006年に報告したプロトコールと同じ方法で投与されています。用量は20mg/kgでD0,D1,D8,D15に皮下投与し投与開始から14日目には状態の改善及び排膿が確認されたとのことです。当院でも高齢のハムスターさんが食欲がなく受診された際に子宮蓄膿症が認められることがあり、その際にアリジンを投与し良好な反応を得ています。残念ながら発情周期が短いためか再発することが多いため十分な経過観察が必要となりますが、手術が困難なことが多いため有効な方法と考えられます。(2024年現在6頭で実施し5頭で排膿が確認されました)
まとめ
今回は子宮蓄膿症に対する注射薬について解説してきました。今までは輸入薬であり使用に対してややハードルが高かったお薬ですが、国内で販売されたことにより使用頻度が増えてくる可能性があります。様々な動物に対して使用でき、また副作用に関しても軽度であることが報告されていますが最も大切なことは子宮蓄膿症は予防できる病気であるということです。繁殖希望や病気でないのに卵巣・子宮を摘出することに抵抗がある方もいるかと思いますが、重症化した場合には命の危険がある病気でもあります。そうなる前にこういった病気があることを認識して家族で話し合うことが大切であると考えています。
院長 中谷
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参考文献
- Anne Gognyら Aglepristone:A review on its clinical use in animals 2016
- Pyometra on small animals 2.0, 3.0
- 犬と猫の治療ガイド 2015 P42-45
- Ozalpら Mid-gestation pregnancy termination in rabbits by the progesterone antagonist aglepristone 2008
- Aglepristone clinical use
- Pisuら Pyometra in a six-month-old nulliparous golden hamster (Mesocricetus auratus) treated with aglepristone 2012



