ブレンダ

膵炎の新治療薬【ブレンダ】

膵炎治療薬【ブレンダ】

今回の内容

ブレンダ
  • ブレンダとは
  • 膵炎と症状について
  • 膵炎の治療方法について
  • まとめ

【マニアック記事】

  • 膵炎についてpart2
  • フザプラジブナトリウムの作用機序
  • LFA-1について
  • 膵炎以外での応用例

ブレンダとは?

魔法使い 犬

ブレンダはフザプラジブナトリウムと何だかハリーポッターの呪文のような名前のお薬です。このお薬は犬の膵炎における急性期(症状が強く出ている時)の治療薬として発売されました。元々はヒトの膵炎薬を目指して開発・試験を行っていたという経緯があります。ヒトの膵炎と犬の膵炎ではメカニズムが異なると考えられているため後述するように他の疾患における使用など今後用途が拡がっていく可能性もあります。(現時点で犬での認可は犬膵炎急性期用抗炎症剤となります)

膵炎について

病気の犬

膵炎は膵臓という消化酵素やインスリンなどのホルモンを分泌する臓器が炎症を起こす病気になります。詳細は後述しますが膵炎の症状としては

  • 頻回の嘔吐
  • 下痢
  • 腹部痛(祈りのポーズで検索!)
  • 元気消失

などがあります。これらは意外と気づきにくく、様子を見ていたら症状が悪化したため受診したなどということが多々あります。ヒトでは職場のストレスが第一の原因と言われていますが犬や猫では普段と違う食事やオヤツ、ヒトの食事を与えることなどが原因として多いと言われています。

膵炎の治療法について

点滴

膵炎の治療の際にはその症状が

  • 臨床的膵炎
  • 組織学的(または慢性)膵炎
  • 他の疾患で膵酵素(PLI)が上昇している

などを鑑別する必要があります。このため血液検査やエコー検査を実施します。一般的に膵炎を疑う際には臨床的膵炎に対して治療(対症療法)を実施します。基本的には

  • 輸液
  • 疼痛管理
  • 制吐薬

が基本となります。ブレンダはこれらの治療に加え、炎症を抑制することで治療効果の改善を目的としています。特に輸液療法は重要で膵臓は元々血流の乏しい臓器であるため脱水などで循環状態が悪化すると症状の増悪が考えられるからです。以前は犬の膵炎に対して絶食治療が行われていましたが、現在では低脂肪食など膵臓に負担が少ない食事を早期に行った方が症状の改善や予後が優れいていることが報告されています。特に猫においては絶食により他の疾患(肝リピドーシスなど)を併発する可能性があるため早期の食事は非常に重要です。

まとめ

今回は膵炎の急性期治療薬であるブレンダと膵炎について解説していきました。近年は獣医療の発展に伴い血液検査やエコー検査機器が発達し今まで分からなかった症状も発見されるようになりました。その一方で本当にその病気であるのかの判断も必要となっています。膵炎の原因や症状などを理解し実際に生じた際に経過や原因などを獣医師に伝えることが出来るとより正確な診療が可能となります。そのため次のチェックが当てはまる際には早めの受診をお勧めします。

院長 中谷

 

【膵炎チェック】

  • 頻回の嘔吐がある
  • 下痢が続いている
  • ぐったりしている
  • お腹(または体)を触ろうとすると嫌がる(噛んでくる)
  • 祈りのポーズをしている
  • ヒトの食事を与えた
  • 食事内容(またはオヤツ)を最近変更した

【やや詳細】膵炎についてpart2

膵炎を診断する上で重要な点としては炎症マーカー(CRPなど)やリパーゼ(LIP)などの数値が上昇していても膵炎とは限らないという点です。膵炎と思っていても腹膜炎や異物による穿孔、腸炎、腫瘍疾患などがあるため鑑別が重要となります。膵炎特異的なマーカーとしてはPLI(Snap cPLなど)という酵素を測定して判断しますが、これも前者の数値と同様に重度の腸炎や異物による閉塞などでも上昇するため「数値の上昇≠膵炎」という点に気をつける必要があります。またエコー検査による膵炎の診断は感度が68%と報告されておりここでも「膵臓の腫れ≠膵炎」という訳ではありません。これは膵臓という臓器が他の臓器の炎症による影響を受けやすいからと考えられています。以下の写真は左から正常→軽度炎症→膵臓周囲まで炎症の波及(腹水貯留)となっています。

膵炎経過

【マニアック作用機序】フザプラジブナトリウムの作用機序

フサプラジブナトリウム作用機序

フザプラジブナトリウムを開発した石原産業株式会社(HPはこちら)ではこのお薬の作用機序に関して詳細な解説があります。慣れていないと何のこっちゃという内容のため少し割愛して説明すると今回のお薬の作用機序として

  1. ケモカインの刺激によりLFA-1が刺激されると白血球の遊走が起こる
  2. 白血球の遊走が過剰になると膵臓などの自己破壊により膵臓の炎症が増悪する
  3. フザプラジブナトリウムはケモカインを介したLFA-1活性を阻害することにより白血球の遊走を抑制する。(PLC-β2とRac1の結合抑制による)
  4. 一方で抗原刺激によるTCR活性は抑制しない。(フザプラジブナトリウムの結合部位は上記③の部分のため)

となりますが上記をいい替えると特定の部位にのみ作用するお薬のため副作用が軽減されていると言えます。

LFA-1を介した遊走メカニズム(CCR7 fuels and LFA-1 grips:Nature)

LFA-1 paper

こちらは2018年のNatureという雑誌に掲載された論文です。ここではT細胞性リンパ球の遊走に対してLFA-1が関与している(CCR7も)ということを解説しています。フザプラジブナトリウムは上記のコラムで説明したメカニズムにより抗原刺激を介したLFA-1は抑制しない一方でケモカインというサイトカインを介したLFA-1活性を抑制することで過剰な炎症を抑えていることが考えられます。

【マニアック応用例】膵炎以外での応用例(適応外使用について)

以下に説明する使用方法は認可外のため、適応に当たっては獣医師の判断と飼い主様からの同意が必要となります。現在様々なお薬においてドラッグ・リポジショニング(drag repositioning:DR)といって本来の目的とは異なった使用方法で全く異なる結果を生み出すという考えが特に人の医学で浸透しつつあります。次の例はそれらとは異なるものですがメカニズムから考えると他のお薬に反応がない場合は検討しても良いかもしれません。

  • 椎間板ヘルニアの急性症状における投与(引用はこちら)(CAP2022 10月号)
  • 子宮蓄膿症に対して炎症を抑制するための投与
  • 猫の難治性口内炎に対する投与(引用はこちら
  • 術後の合併症抑制(GO-VET 2020March 100)
  • 眼疾患の炎症管理(GO-VET 2020March 100)
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