猫の寄生虫症について〜マンソン裂頭条虫編〜

今回の内容

・マンソン裂頭条虫って!?

・症状や感染経路について

・寄生虫の検出方法は?

・治療法について

・まとめ

*今回は寄生虫の実際の写真が出ます。

お食事中の方は特に気をつけてください!

マンソン裂頭条虫って!?

マンソン裂頭条虫はカエルを中間宿主やヘビ、鳥類を待機宿主とするspirometra属の寄生虫で全長は60cm〜280cmにもなります。(写真のものは猫ちゃんから出てきたもので120cm程度)寿命は1.5年程で壺型吸虫という寄生虫との混合感染が認められることがあります。

人に感染すると皮膚幼虫移行症や移動性の腫瘤(コブ)を形成することがあります。但し犬・猫の便から出てきた虫卵を食べてしまっても感染は起こらず基本的にはカエルや感染した鳥などを生食した際に感染します。(人ではプレロセルコイドの摂食による感染)

*人での報告は「皮膚爬行疹患者から検出された Spirometra 属裂頭条虫の遺伝子解析」らがあります。ここではイワナやホタルイカの生食による感染が報告されています。

アップ写真です。”きし麺状”の成虫で節状になっており一つ一つを片節と言います。

症状や感染経路について

症状としては食べているのに痩せる・吐く・下痢などの症状が認められます。これは犬・猫での寄生部位は小腸であり、大量感染が起こると小腸での吸収が低下するためです。

少量感染の場合は症状がなく長期的に保有していることもあり、ストレスなどを感じた際に偶発的に排出されることがあります。

感染経路はヘビやカエル、鳥などの生食により感染が認められます。野生ではこれらの生き物を採って生活しているため外出する子にはよく感染が認められます。潜伏期間(プリパテントピリオド)は約10日のため当院では服用後2週間程度で再度便検査を実施しています。

寄生虫の検出・診断方法は?

検出方法としては便検査(直接塗抹法)にて検出します。

できるだけ新鮮な便が採れたらラップなどで乾燥に注意して持参していただけるとスムーズに検査することが出来ます。また特殊な例にはなりますが便中には虫卵が認められず内視鏡にて胃〜小腸に感染していた事もありました(写真)

矢印で示しているのが実際の虫卵です。左右非対称のフットボール型という特徴があります。成虫一匹の産卵数は100万〜2000万個/日と変動が大きいと言われています。このため一度検査で陰性でも何度か検査をすることをオススメします。

治療法について

マンソン裂頭条虫に対してはプラジクアンテルというお薬を使用します。ただし一般的な量では効果がなく他の寄生虫(瓜実条虫など)に対して6倍程度の用量を要します。

お薬は飲み薬の他に注射薬(下写真)があります。注射薬の注意点としては油性注射薬(ドロッドロなお薬)なので稀に注射部位反応性肉腫を形成することがあり注意が必要とされています。

お薬の副作用としては【嘔吐・下痢・食欲不振】などがありますが注射薬の場合【注射部位の疼痛・運動失調・嗜眠・衰弱】が報告されているため状況によって使い分けが必要です。*注)あくまで報告なので必ずこれらの副作用が出るわけではありません。また安全性を加味した上で当院では少量からの内服(副作用がでないかのチェック)をオススメしております。またとても苦いお薬のため涎が大量に出ることもあります。

まとめ

マンソン裂頭条虫はカエルやヘビを食べる事により感染する寄生虫感染症です。

少量の感染の場合は症状を呈しない事もありますが【嘔吐や下痢】などの症状を呈することがあります。大量寄生の場合は通過障害や腸閉塞に発展する可能性もあります。

【よく食べるのに痩せている】【下痢が続く】【お尻からきしめん状のものが出てきた】などの症状があれば新鮮な便を持参の上、早めの受診をオススメします。

 

【参考図書】

・犬と猫の治療ガイド 2015

・猫の治療ガイド 2020 p298,299

・CAP No.294(2013,12月)

・伴侶動物治療指針 No7 P24~P36

・寄生虫カラーアトラス P38~39

・獣医寄生虫検査マニュアル P49,50 P112,113

【お薬の作用機序について】〜マニアックな内容です〜

本題とは関係のないことですがお薬の作用機序についての概略を記します。

【プラジカンテルの作用機序】

細胞膜のリン脂質に作用しCa^2+の透過性を高めることで筋収縮を引き起こし痙攣・麻痺を生じさせる。

低用量で使用した場合は条虫類の吸盤の機能を阻害する作用や外被に障害を与えて必須栄養素を漏出させ、外被抗原を露呈させるという作用もある。(この事により腸管内における少佐作用に対する条虫の抵抗性を低下させ虫体自体が消化・分解させる)

プラジクアンテル服用後には虫体がすべて消化されてしまうため糞便中に片節が排出されることはない。但し成虫に対して効果を示すが殺卵性はないため顕微鏡下では虫卵の排泄が一定期間確認される。尚合剤を使用する場合に関してはプラジクアンテルの用量に合せてた場合に合剤の成分が過剰にならないかを注意する必要がある。

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