犬の慢性腸疾患について
今回の内容

- 下痢をおこす主な慢性腸疾患とは(犬の場合)
- 蛋白漏出性腸症とは
- 下痢をおこす原因
- 慢性腸症の治療について
- 下痢で危険な状態とは
- まとめ
下痢をおこす主な慢性腸疾患

犬における慢性的な下痢の原因として主なものは次のものが挙げられます。
- 慢性腸症(特発性の慢性胃腸炎)
- 腸リンパ管拡張症
- 脂肪肉芽腫性リンパ管炎
- 腸管リンパ腫
この中で慢性腸症はおおまかに次のように分類されています。
- 食事反応性腸症(FRE)
- 抗菌薬反応性腸症(ARE)
- ステロイド反応性腸症(≒IBD)
- これらを判別する際にはエコーで腸の状態を確認したり、内視鏡にて腸の細胞を採材・腸の一部を外科的に切り取り病理検査するなどの方法で診断をしていきます。ここで重要なのが慢性腸症は一つの原因で起こるものではなく様々な要因が重なって生じる現象であるため複雑になりやすいということがあります。(引用)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2022.923013/full
蛋白漏出性腸症とは
下痢が慢性化すると胃腸粘膜からタンパク質が漏れ出て蛋白(主にアルブミン)が低下することがあります。これは猫と比べると圧倒的に犬の方がなりやすく、胃腸の構造が崩れてしまう原因(潰瘍や炎症、腫瘍など)があれば起こる可能性があります。
蛋白が漏れ出ることで膠質浸透圧という圧力が低下し腹水が溜まる原因となります。蛋白漏出性腸症を起こすような病気で多いものとしては
- 慢性腸症
- 腸リンパ管拡張症
- 消化器型リンパ腫
- 寄生虫感染症
- 腸重積などの物理的狭窄
- ウイルス感染症
などがあります。これらは併発していたり病態が重複していることがあります。慢性的に炎症を起こすことにより腫瘍化するリスクも考えられます。
下痢を起こす原因

下痢を起こす原因は様々あり、人でも傷んだ食材を摂取するなどで下痢などの症状を呈することがあります。動物では新しいおやつを食べたり、ストレス(環境的ストレスや精神的ストレスなど)でも下痢の原因になったりします。診察の際は次のような背景を踏まえた上で診断をしていきます。
【下痢を起こす背景】
- 腸内環境の乱れ
- 食事的要因(食事の変更など)
- 遺伝的背景(犬種など)
- 腸の運動性の変化
- 食物アレルギー
- 粘膜の慢性的な炎症(異物なども含まれる)
- 腫瘍などの可能性
当院ではまず下痢などについて食事などの内容を聞き、便の状態を顕微鏡で確認後エコー検査にて腸の構造異常などがないかを確認していきます。
慢性腸症の治療について
Albert Eらの報告では図のような順で疾患が多いと報告されています。
この中で最も多い原因としては食事反応性腸症であり次に抗菌薬反応性、ステロイド反応性が続きます。このため上記のような蛋白漏出性腸症がない場合は以下のような診断的治療を行なっていきます。
- 低アレルギー食
- 食物繊維を増やした食事または別の低アレルギー食
- 内視鏡生検
- 食事療法にステロイドを併用
- 抗菌薬の使用を検討
*明らかに原因や感染症などがある場合は抗菌薬の治療から開始したり、状態に応じてはステロイドから治療を行うことがあります。
下痢で危険な状態とは
下痢症状において危険要因としては次のようなものが挙げられます。この際は早期に治療を行うなどの対策が必要となります。
- 高齢である
- 体重の減少が著しい(5%以上)
- 食欲の低下
- 脱水が重度
- 下痢の回数が多いまたは増加している
- 治療への反応が乏しくなってきた
- エコー検査にて腫瘍を疑う所見がある
まとめ
今回は慢性腸疾患について解説してきました。ひとことに下痢と言っても様々な原因があり各々の治療法も異なってきます。2−3日で改善するような症状であれば経過観察などで改善することもありますが、今回触れたような危険な下痢などは早めの受診にて治療を開始するなどの必要があります。下痢などが続き体調の悪化があれば便を持って一度受診してあげることをお勧めします。
院長 中谷
【appendix】疾患に対する対処法
- ステロイド反応性腸症
- リンパ管拡張性腸症(脂肪肉芽腫性リンパ管炎)
- 抗菌薬反応性腸症
- 食事反応性腸症