猫のお口

猫の歯肉炎(歯肉口内炎)について

          

猫の歯肉口内炎

今回の内容

  • 猫の歯肉口内炎とは
  • 歯肉口内炎の症状について
  • 歯肉口内炎の治療方法【内科治療】
  • 歯肉口内炎の治療方法【外科治療】
  • 最新の情報
  • まとめ
  • 歯肉口内炎を極める!マニアック情報

歯肉口内炎とは

猫の歯肉口内炎

歯肉口内炎はお口の粘膜(口腔粘膜)の炎症が原因で様々な症状を来す病気です。

根本的な原因は分かっていないものの猫カリシウイルス(FCV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)、猫白血病ウイルス(FeLV)などのウイルスの他、歯垢などに含まれる細菌、それらに対する過剰な免疫反応などが発症に関与するとされています。

歯肉口内炎の症状について

怒ったネコ

歯肉口内炎で認められる症状は多岐に渡りますが代表的なものとして

  • 口腔内粘膜の腫れ
  • 嚥下困難
  • 口臭
  • 食欲低下、これに伴う体重減少

また痛みのために攻撃的になる子もいます。実際に歯肉口内炎を治療することで今まで触れなかった子がすごく懐いてくれたという例も多く聞かれます。

歯肉口内炎の治療方法【内科治療】

初期の段階では内科的に治療を行います。この際に注意すべき点としては

  • 予防接種の有無(猫カリシウイルスのチェック)
  • 猫エイズ・白血病感染の有無(FIV,FeLV陽性では難治性となる)
  • 歯石や歯周病の有無

を確認していきます。歯周病があれば抗生剤治療で歯肉口内炎が反応するのかを確認していきます。これらに反応しない場合はステロイドや免疫抑制剤などを使用することもあります。但し長期的に作用するステロイド(デポメドロールなど)は症状を緩和するものの糖尿病や急性心不全などを引き起こすことがあるため判断は慎重に行う必要があります。

最近ではイチゴから作られたインターベリーα®が歯肉炎の緩和に役立つとの報告もあります。

 

歯肉口内炎の治療方法【外科治療】

口のレントゲン

内科治療に反応しない子または長期的に炎症を起こしたり再発を繰り返す子に対しては外科的な治療を行います。外科治療で重要な事は

  • 歯を完全に取り除く(残根を残さない)
  • 抜いた部分(抜歯窩)をマイクロエンジンで滑らかにする(スムージング処置)

があります。このため猫の歯肉口内炎の治療においては歯のレントゲンが必須となります。(少しでも歯の破片が残るとその部分の炎症が続いてしまうため)また現在は抜歯後に炎症部位におけるレーザー処置を実施することで術後の回復が早くなっています

(写真のレントゲンでは歯が完全に抜去されており残根がないことが確認されます)

また術後は疼痛による食欲不振などが特に高齢の猫ちゃんの処置後に認められることがあるため数日間の点滴入院をお勧めすることもあります。

まとめ

今回は猫の歯肉口内炎について解説してきました。発症は中年齢からが多いとされていますが若い頃の歯周病から発展していくことも報告されています。また歯肉炎や歯周病と思われていても実はお口の腫瘍(口腔内扁平上皮癌など)が隠れていることもあります。

  • お口を触れるのを嫌がる
  • 涎が増えてきた
  • 口臭が強くなってきた

などの症状があれば様子を見るのではなく早めの治療開始をお勧めします。

猫ちゃんの口臭や涎のトラブルに関してお気軽にご相談ください。

院長 中谷

 

【参考文献】

・伴侶動物の治療指針vol.8

・猫の歯肉口内炎 I 藤田圭一

・Feline&Canine oral ulcerative disease Brook A. Niemiec

・Chronic Feline Gingivostomatitis:Proven Therapeutic Approaches and New Treatment Options Barden Greenfield

Therapeutic efficacy of fresh, autologous mesenchymal stem cells for severe refractory gingivostomatitis in cats.

・Evaluation of analgesic effect and absorption of buprenorphine after vuccal administraion in cats with oral disease (Thleia-Rengina Stathopoulouら 2017)

実際の症状について

猫の歯肉口内炎

尾側粘膜を超えて炎症が存在するため歯肉口内炎と考えられます。

猫の歯肉炎

こちらの場合は歯の周りのみ限局して赤くなっているため接触性口内炎(潰瘍性歯周口内炎)である可能性があります。

 

 

 

 

歯肉口内炎を極める!マニアック情報①

猫の歯肉口内炎(Feline caudal stomatitis)の定義として獣医歯科専門医であるDr.Niemiecによると猫の歯肉口内炎は歯周病と異なり歯肉を超えて他の口腔内粘膜に炎症を波及した状態を指しています。(Caudal stomatitis)【詳しくはこちら】また近年の報告では尾側粘膜に炎症が波及している場合を歯肉口内炎としている傾向にあります。犬においても猫の歯肉口内炎と同様の口内炎がありこれは慢性潰瘍性歯周口内炎(chronic ulcerative paradental stomatitis(CUPS))と呼ばれています。この場合は猫と同様の治療が必要とされています。

 

歯肉口内炎を極める!マニアック情報②

猫の歯肉口内炎の発症率はArzi Bらの報告によると0.7-10%程度と言われています。*1他の報告では純血種が多い傾向があるとされていますが、実際に診察していると様々な子が発症しているように感じます。またウェットフードでの発症が多いとされており、多頭飼育の猫に多い事が報告されています。

鑑別疾患としては熱傷、感電、異物の摂取、腫瘍(特に口腔内扁平上皮癌)、好酸球性肉芽腫症候群のような免疫疾患、肝機能不全に伴う栄養不良、慢性腎臓病に伴う尿毒症などがあります。この際に注意すべき点としては左右対称性の有無、隆起の有無などがポイントとなります。左右非対称である場合、腫瘍や歯垢などに反応した潰瘍性歯周口内炎なども鑑別になってきます。病院では麻酔をかけないとお口の中を観察できないことも多いため自宅にてあくびをした際の写真などが参考になることがあります。

*1 Arzi B, Mills-Ko E, Verstraete FJ, et al. Therapeutic efficacy of fresh, autologous mesenchymal stem cells for severe refractory gingivostomatitis in cats. Stem Cells Transl Med 2016; 5(1):75-86.

歯肉口内炎を極める!マニアック情報③

猫の歯肉口内炎治療

猫における慢性歯肉口内炎に対してブプレノルフィンの経口投与が効果的である可能性があるとの論文が発表されました。

Evaluation of analgesic effect and absorption of buprenorphine after buccal administration in cats with oral disease (Thaleia-Rengina Stathopoulouら 2017)

この論文によると生理食塩水のコントロール群と比較してブプレノルフィンの口腔内投与は鎮痛効果が有意に認められ、特に顕著な副作用が認められなかったとの事でした。また個体間での差もあまり認められなかったとのことです。
今度としては長期的に服用した際の副作用などについて研究していくとのことです。
今まで歯肉口内炎で外科的療法が適応できなかった子に対しては長期的なステロイドが使用されてきました。しかし長期的かつ高用量のステロイドは先述の通り糖尿病などを引き起こす可能性があり、今後の治療選択肢の一つとなるかもしれません。
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