ねこの肥大型心筋症

ねこの肥大型心筋症

今回の内容

  • 肥大型心筋症とは
  • 心雑音・不整脈との関連性
  • 検査方法について
  • 治療について
  • まとめ
  • 最新の報告

肥大型心筋症とは

肥大型心筋症は心臓を構成する心筋細胞が肥大または配列が乱れることにより生じます。猫では一般的な心臓の病気であり無症状で健康な猫でも14.7%の割合で肥大型心筋症と診断されているとの報告があります。猫ではメインクーンやラグドール、アメリカンショートヘアにおいて遺伝子の関与が知られていますが、多くは雑種であり年齢差はありません。(当院のデータでは4ヶ月齢で最初のワクチンの際に診断された子もいます。)

症状としては心機能低下に伴う「うっ血性肺水腫」や「腎梗塞」、「動脈血栓塞栓症」などがあり多くがある日突然発症します。

【まとめ】

  • 心臓を構成する心筋が肥大することによって生じる
  • 年齢は関係ない
  • 遺伝的要因もあるが雑種でもおこる
  • 多くは無症状(発症すると重篤な症状)

心雑音・不整脈との関連性

肥大型心筋症をもつ猫において46%(260例中)に心雑音が聴取されたとの報告があります。(Rush JEら2002)重度の心雑音(Levine 4/6~)が確認された場合は心疾患の可能性が示唆されますが、猫において注意すべき点として軽度の心雑音は興奮などによっても聴取されるということです。(LVOTO:動的左室流出路閉塞)(Franchini A ら2021)この場合、猫の興奮が落ち着いても心雑音が聴取されると心疾患による心雑音の可能性が高くなります。また同様に20%の症例で不整脈(ギャロップ音)が確認されています。特に頻脈に関しては心電図検査で異常がないかを確認する必要があります。ただし肥大型心筋症があっても27%は雑音も不整脈もないことがあり、必ずしもこれらの所見がないからと言って否定できない点に注意する必要があります。

【まとめ】

  • 心雑音があっても心疾患が必ずしも存在するわけではない(他の原因もある)
  • 不整脈(頻脈)があると肥大型心筋症の可能性がある
  • 心雑音も不整脈もない肥大型心筋症が存在する

検査方法について

ここまでの内容で猫の肥大型心筋症では

  • 心臓の異常があっても症状がない(咳はでない)
  • 初期〜中期でも気づかない
  • 気づいたら重度

と症状が出てくるまで事前にわかる事が困難であるかを説明させていただきました。

発症すると重度の症状がでるため早期に発見するかが重要となってきます。現在のところ次の検査が考えられます

  • 聴診
  • レントゲン検査
  • 心エコー検査
  • 心臓バイオマーカー(ANPやBNP)

また検査ではありませんが顔や体格が大きい成長の早い猫は血液中のIGFというホルモンが高い事が知られており肥大型心筋症の個体に多い事が知られています。(Freeman LMら 2015)これらの検査は一つで万能という訳ではなく各々の特性を理解した上で診断・経過観察していくことが重要となります。

治療法について

では肥大型心筋症に対しての治療法は何があるのでしょうか?症状を呈さない無徴候の猫に対してセミナー内で竹村先生は次のように分類されていました。(猫の肥大型心筋症(2020),ファームプレス)

  • 心室壁の増大のみ→無治療or 強心薬
  • 左房の拡大(LA/AO>1.6)→強心薬 and/or血栓予防療法

当院では経過を確認して徐々に拡大(悪化)傾向がある場合は強心薬としてピモベンダン、血栓予防療法としてサプリメントであるルンワン®️を処方しています。(報告ではクロピドグレルというお薬が推奨されていますが苦味が強くて継続されないため)またこれまで使用されていたアンジオテンシン変換酵素阻害薬(以下ACEI)はその後の研究によって否定的な意見が多く認めれられるようになっています。*1、*2(*注1:進行抑制に対して内服の効果はなし*注2:個別の症状に対しては使用する可能性はある)

まとめ

今回猫の肥大型心筋症に関してのセミナーを受けて最新の知見および当院での方針についてまとめてみました。症状がなく突然重症化することから非常に怖い病気と考えられますが日頃の診療や健診などでも(不整脈や心雑音に)気づく可能性があります。そして見つかった場合には慎重な経過観察や治療が大切です。ただし、これらの徴候がないからと言って病気の存在は否定できないため日頃から体調を見てあげて少しでも気になる点があれば早めの受診・検査の実施をお勧めします。

 

院長 中谷

最新の報告

2020年にvan Hoekらの報告(Echocardiographic, morphometric and biomarker changes in female cats followed from 6 to 24 months of life)では心臓病に特化した食事を食べる事により心臓バイオマーカーが有意に改善することが明らかになりました。これまでは内服やサプリメントによる予防が主体でしたが、毎日の食事によって改善する可能性が示唆されています。まだ報告数は少ないため今後の研究が待たれます。

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